アルコール依存症患者への 訪問看護支援事例

アルコール依存症患者の地域生活支援において、訪問看護は再飲酒防止と生活の質の向上に重要な役割を果たします。本事例では、退院後の生活環境の変化に適応しながら、断酒を継続できた事例を通じて、訪問看護の有効性を検討します。 A様は、アルコール依存症の診断を受け、精神科病院に通院されています。生活保護を受給中で、後に市営住宅へ転居されました。週2回の訪問看護を受けながら、地域生活の再構築と再飲酒防止に取り組みました。

支援開始時の状況

A様は退院直後より訪問看護を開始しました。抗酒薬（レグテクト）を内服中で、独居生活における再飲酒のリスクが懸念されていました。生活の大半を風除室で過ごし、高血圧傾向も見られました。 一方で、服薬管理や生活管理への意欲は高く、支援に対する受け入れは良好でした。この時期は環境への適応と基本的な生活リズムの確立が課題となっていました。

服薬管理	抗酒薬の確実な内服支援
身体状態管理	バイタルサインの定期的観察
生活リズム確立	日常生活の安定化支援
心理的サポート	不安や心配事の傾聴

初期（1-2月）：環境適応期

退院直後の不安定な時期であり、生活リズムの確立と服薬管理の支援を中心に介入しました。特に抗酒薬の確実な内服を支援し、飲酒欲求が生じた際の対処方法について一緒に考えました。 また、バイタルサインの定期的な観察を通じて、身体状態の管理も行いました。訪問時には本人の不安や心配事を丁寧に聴取し、心理的サポートを重視しました。この時期は特に再飲酒防止に焦点を当てた支援が重要でした。 服薬管理支援 抗酒薬（レグテクト）の確実な内服確認と管理方法の指導を行いました。薬の効果と副作用について説明し、自己管理能力の向上を目指しました。 飲酒欲求対処法 飲酒欲求が生じた際の具体的な対処方法を一緒に考え、実践できるよう支援しました。気分転換の方法や、サポート資源の活用方法を提案しました。 心理的サポート 不安や孤独感に対する傾聴と共感を通じて、精神的な安定を図りました。退院後の環境変化に伴うストレスへの対処を支援しました。

中期（2-3月）：生活安定期

生活リズムが安定してきたことを受け、デイサービスの利用を開始しました。ここでの活動を通じて、他者との交流機会が増え、社会性の回復につながりました。また、高血圧への対策として、胡麻麦茶の飲用や塩分制限などの生活指導を実施しました。 さらに、散歩を日課として取り入れ、運動習慣の定着を図りました。この時期、本人から「みんな優しい」「行くのが楽しみ」という発言が聞かれるようになり、社会との繋がりが徐々に構築されていきました。

生活リズムの安定	規則正しい生活習慣の確立
社会交流の拡大	デイサービスでの活動参加
健康管理の強化	高血圧対策と運動習慣の定着
精神的安定の向上	ポジティブな発言の増加

後期（4-5月）：自立支援期

市営住宅への転居を機に、新たな生活環境での自立支援を強化しました。転居に伴う環境変化へのストレスに配慮しながら、地域資源の活用方法について具体的に提案しました。民生委員による定期的な見守りや、近隣住民との関係づくりを支援しました。 また、買い物や通院時の対応として、アルコール販売店への立ち寄りを避けるなど、具体的な再飲酒防止策を本人と共に検討しました。この時期は特に地域での自立生活の基盤づくりに重点を置きました。

新環境への適応	市営住宅での新生活適応支援
地域資源の活用	民生委員や地域サービスとの連携
近隣関係の構築	地域住民との関係づくり支援
再飲酒防止策	具体的な回避行動の計画と実践

看護介入の成果

訪問看護による継続的な支援の結果、渡邊様は支援開始から一度も再飲酒することなく経過されました。デイサービスでの交流や近隣住民との関係構築を通じて社会性が回復し、服薬管理や健康管理の自立も進みました。 また、散歩の習慣化や外出機会の増加により活動性も向上しました。GAF値が60点から85点に改善したことからも、介入の効果が確認できました。生活の質の向上と社会参加の促進という目標が達成されつつあります。

訪問看護介入の利点

生活の場での関わりにより、実際の生活状況を把握し、具体的な助言が可能となりました。また、些細な変化にも気づきやすく、早期介入につながりました。医療機関、デイサービス、民生委員など、多職種との連携を図りながら、包括的な支援体制を構築できました。 定期的な訪問により、本人との信頼関係が深まり、不安や困りごとを率直に相談できる関係性を築くことができました。これらの利点が、アルコール依存症からの回復と地域生活の再構築を効果的に支援する基盤となりました。

信頼関係の構築	継続的な関わりによる安心感の提供
継続的な観察と支援	生活場面での変化への早期対応
包括的支援の実現	多職種連携による総合的アプローチ

まとめと今後の課題

本事例を通じて、アルコール依存症患者の地域生活支援における訪問看護の重要性が示されました。特に、生活の場での継続的な関わりが、断酒の継続と社会生活の再構築に有効でした。GAF値の改善からも、介入の効果が確認できました。 今後の課題として、さらなる社会参加の促進と、支援体制の安定化が挙げられます。引き続き、本人の自立を支援しながら、より充実した地域生活の実現を目指していきます。長期的な視点での支援継続と、地域資源のさらなる活用が重要です。 社会参加の促進 地域活動やボランティアなど、さらなる社会参加の機会を模索し、社会的役割の獲得を支援します。 支援体制の安定化 医療機関、地域サービス、近隣住民などを含めた包括的な支援ネットワークの強化を図ります。 自立生活の充実 生活の質のさらなる向上と、長期的な断酒継続のための自己管理能力の強化を目指します。